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東京高等裁判所 昭和59年(ネ)700号 判決 1985年10月15日

控訴人 永代信用組合

右代表者代表理事 山屋幸雄

右訴訟代理人弁護士 萩秀雄

同 小林芳男

被控訴人 亡丸野清訴訟承継人 丸野冨美子

<ほか三名>

右四名訴訟代理人弁護士 田村恭久

主文

原判決を次のとおり変更する。

控訴人に対し、被控訴人丸野冨美子は金七五〇万円、被控訴人丸野亘清、同丸野清和及び同佐々倉順子は各金二五〇万円並びに右各金員に対する昭和五三年六月一三日から完済まで日歩七銭の割合による金員を支払え。

控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、第一、第二審を通じこれを二〇分し、その一三を控訴人の、その四を被控訴人丸野冨美子の、その一ずつを被控訴人丸野亘清、同丸野清和、同佐々倉順子の各負担とする。

この判決は、第二項に限り、仮に執行することができる。

事実

一  控訴代理人は「原判決を取り消す。控訴人に対し、被控訴人丸野冨美子は金二、〇九六万四、四二二円、被控訴人丸野亘清、同丸野清和及び同佐々倉順子は各金六九八万八、一四〇円並びに右各金員に対する昭和五三年六月一三日から完済まで日歩七銭の割合による金員を支払え。訴訟費用は、第一、第二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴人ら代理人は控訴棄却の判決を求めた。

二  当事者双方の主張は、原判決事実摘示「第二 当事者の主張」欄に記載のとおりである(ただし、原判決二丁裏一〇行目に「承継前原告」とあるのを「承継前被告」と、同三丁表七行目に「被告」とあるのを「丸野清」と、同三丁表一一行目冒頭から同丁裏二行目末尾までを「3 丸野清は、昭和五七年四月五日死亡し、その権利義務は被控訴人らが相続したが、その相続分は、妻である被控訴人丸野冨美子が二分の一、子であるその余の被控訴人らが各々六分の一である。」と、それぞれ改める。)から、これを引用する。

三  《証拠関係省略》

理由

一  請求原因1の事実(本件貸付契約の成立)中、利息の約定及び本件貸付契約締結日を除くその余の事実並びに同2の(二)の事実(本件包括保証契約の成立)はいずれも当事者間に争いがない。

二  控訴人は、請求原因2の(一)のとおり、丸野清が控訴人との間で本件保証契約を締結した旨主張するので、まずこの点について検討する。

連帯保証人欄に丸野清の住所、氏名が記載され、その名下に同人の押印のある額面七、〇〇〇万円、振出日昭和四八年一〇月一一日の相互建設振出にかかる約束手形が存在し、丸野清名下の印影が同人の印章により顕出されたものであることは争いがないところ、その作成と前後の状況についてみるに、《証拠省略》を総合すると、次の各事実が認められる。

1  相互建設は、資本金四〇〇万円の個人会社で、昭和三五年七月八日、訴外田村要蔵によって設立され、当初は不動産仲介を主な業務としていたが、その後次第に木造個人住宅の建築、建売り等にその主力を移し、同四三年ころには年商約一億円、同四八年ころには年商約一億五、〇〇〇万円程に達していた。丸野清は、昭和二四年ころから中野区中央五丁目で酒店を経営し、妹が田村要蔵の妻であった関係もあり親しく交際していたところから、相互建設が設立された際、田村要蔵から請われてその取締役に就任したが、同社の実質的な経営は代表取締役である右田村及びその息子の取締役田村耕一が行なっており、名目的な取締役として同社の業務には関与していなかった。

2  相互建設は、土地を購入して転売し利益を上げようと考え、昭和四八年七月一〇日、訴外有限会社丸武(代表取締役坂井武雄)から同社所有の千葉県君津市坂田字鳥打五八八番山林五一二平方メートル外三筆合計二、九四七平方メートルの土地を代金六、二四四万円で購入し。その手付金及び中間金三、〇〇〇万円を支払い、残代金三、二四四万円の支払いのため、同年九月下旬ころ、控訴人に対し右の事情を説明して融資を申し込んだ。その結果、控訴人と相互建設の間で、控訴人が相互建設に対し金七、〇〇〇万円を融資し、そのうち金二、七〇〇万円を定期預金として控訴人に預け、相互建設は担保として前記の土地につき控訴人のために順位一番、極度額五、〇〇〇万円の根抵当権を設定するとの協議が進み、控訴人において同年一〇月三日右の条件で貸出しを認可する旨の決裁がされた。

3  相互建設の取締役田村耕一は、昭和四八年一〇月九日、右の融資を受けるのに必要な書類を作成するため控訴人高円寺支店を訪れたが、その際同支店長白石勝男から丸野清がすでに本件包括保証契約をしている関係から相互建設が右借受けにつきその振出にかかる額面金七、〇〇〇万円の約束手形の連帯保証人欄に同人の署名、押印が必要であると言われ、同人宅へ赴いた。田村耕一は、丸野清が昭和四五年ころからパーキンソン氏病に罹患し、身体の筋肉が硬直するなどの症状で床に伏せることが多かったところから、右の金七、〇〇〇万円の連帯保証人の件を率直に告げてその了解を得ることは困難であると考え、右の事情を秘し、本件包括保証契約の再確認のため書類を作り直すのに必要である旨虚偽の事実を申し述べて同人から同人の実印を預り、その足で中野区役所に赴いて同人の印鑑証明書の交付を受けたうえ、控訴人高円寺支店へ戻り、右約束手形の連帯保証人欄に丸野清の住所、氏名を記入し、その名下に右の実印を押して偽造し、その日に金七、〇〇〇万円の借入れに関する他の書類をも作成した。そして次の同月一〇日は休日であり、翌一一日約束どおりの条件で金七、〇〇〇万円の融資が実行され、同日、控訴人高円寺支店の職員、田村要蔵及び田村耕一は、右の融資を受けた金額のうち金三、二四四万円の小切手を持参して前記の土地の売主の代表取締役坂井武雄と木更津駅で午後二時ころ落ち合い、木更津市内の司法書士事務所に赴き、右の土地の残代金として右の小切手を坂井武雄に交付し、司法書士に対し、右の土地につき、相互建設への所有権移転登記及び控訴人のための極度額五、〇〇〇万円の一番根抵当権設定登記手続を委任し、翌一二日右の各登記手続がされた。《証拠判断省略》

右認定の事実によると、前記約束手形中の丸野清作成名義部分は真正な文書と推定することができないから、右の文書をもっては丸野清が本件貸付契約につき連帯保証をした旨の本件保証契約の成立を認定する証拠とすることはできず、他に本件保証契約の成立を認めるに足りる証拠はない。なお、本件包括保証契約を承認し、現在負担し、将来負担する債務につき連帯保証債務を負う旨の記載がある昭和四八年一〇月一一日付けの丸野清作成名義の「証」と題する文書が存在するが、これは、その作成時期いかんに拘わらず、その記載内容に照らし、本件包括保証契約の内容を再確認したにとどまり、前記の金七、〇〇〇万円の債務を本件包括保証契約の中に組み入れる意思表示又は右の債務が本件包括保証契約の中に含まれていることの確認を表示したものとは到底認められない。

三  前記のとおり、控訴人と丸野清との間において本件包括保証契約が締結されているので、抗弁について判断する。

本件包括保証契約は、連帯保証人丸野清が控訴人と相互建設との継続的取引によって生ずる債務につき、保証期間及び限度額を定めずその一切を保証する包括的な根保証であることは明らかであり、このような保証契約においては、保証契約締結に至った事情、当該取引の業界における一般的慣行、債権者と主たる債務者との取引の具体的態様、経過、債権者が取引にあたって債権確保のために用いた注意の程度、保証人の認識の程度、その他一切の事情を斟酌し、信義則に照らして合理的な範囲に保証人の責任を制限すべきものであると解するのが相当である。

そこで、これを本件について検討すると、前記認定の諸事情に加え、《証拠省略》によると次の各事実が認められ、これに反する証拠はない。

1  控訴人と相互建設との取引は、昭和四三年五月ころから始まり、本件包括保証契約を締結した同年八月二一日の貸付け残高は金五一五万円で、その後本件貸付契約が締結された同四八年一〇月ころまでの約五年間、控訴人からの貸付けは一〇回以上に及び、その額は運転資金、資材購入費等として一回につき金一〇〇万円から三〇〇万円程度であり、貸付け残高は同四六年二月一日の金六四〇万円を最高とし、本件貸付契約直前では金九〇万円となっており、控訴人側からみても小さな取引先であると認識していた。

2  他方、丸野清は、控訴人との間で、昭和四四年三月一四日、田村要蔵及び同人が代表取締役をしている株式会社公建社を連帯保証人とする本件包括保証契約と全く同趣旨の契約を締結し、これを利用して同日、控訴人から金四二〇万円を借り受けているほか、同五一年一〇月三〇日、訴外菅原キミが控訴人から金八〇〇万円の融資を受けるについてその債務につき連帯保証をしており、また同日、右訴外人が全国信用協同組合連合会の代理人である控訴人から金一、〇〇〇万円の融資を受けるについても同じく連帯保証をしており、控訴人との取引も少ないものではなく、保証制度に関しては十分な知識があり、これを熟知していた。

3  本件貸付契約は、前記のとおり不動産購入資金の融資であり、相互建設は、前記の土地を購入してこれを転売し、利益を得ることを目的にしており、そのことは控訴人においても田村要蔵らから聞いて了知しており、また融資額七、〇〇〇万円が従前の相互建設との取引状況からみて極めて高額であることは控訴人も認識しており、本件包括保証契約に加えて丸野清の保証意思の確認の必要があると判断し、前記のとおり田村耕一に対し、金七、〇〇〇万円の約束手形につき丸野清から連帯保証をすることの了解を得るように指示したのである。

右認定の事実によると、丸野清は、相互建設の取締役に就任し、同社の経営に参加しているとはいえ全く名目的なものであり、金七、〇〇〇万円の本件貸付契約について田村要蔵及び田村耕一から説明を受けることもなく、また控訴人からも直接連絡は受けていなかったこと、相互建設が不動産を取り扱っている会社であるところからある程度高額の融資に発展することも予測されない訳ではないが、本件包括保証契約から本件貸付契約まで約五年の期間の実績は、一回の貸付け金額は金一〇〇万円から金三〇〇万円、貸付け回数は一〇回余り、取引残高は最高金六四〇万円であって、本件貸付け契約は通常の予想の範囲をはるかに超える金額であると考えざるを得ないこと、丸野清自身主たる債務者となって田村要蔵らを連帯保証人とする本件と同趣旨の契約を控訴人と締結し、また他の債務者の関係で金一、八〇〇万円にものぼる債務につき連帯保証をしていること及びその他諸般の事情を総合考慮すると、丸野清が控訴人に対して負担すべき責任額は金一、五〇〇万円をもって限度とするものと認めるのが相当である。

四  請求原因3の事実(丸野清の死亡と相続関係)は当事者間に争いがない。そうすると、控訴人に対し、被控訴人丸野冨美子は金七五〇万円、被控訴人丸野亘清、同丸野清和、同佐々倉順子は各金二五〇万円並びにそれぞれ右各金員に対する弁済期の後である昭和五三年六月一三日から完済まで日歩七銭の割合による約定遅延損害金を支払うべき義務がある。

五  以上に説示したところによると、控訴人の本訴請求は、右の限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当として棄却を免れない。

よって、以上の結論と一部異なる原判決主文第一項を本判決のとおり変更し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九二条、九三条一項を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡垣學 裁判官 佐藤康 裁判官大塚一郎は転補につき署名捺印することができない。裁判長裁判官 岡垣學)

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